―満足できる翻訳品質のためにー
文書を日本語から外国語に、あるいは外国語から日本語に翻訳する場合、単に翻訳という作業以外にも多くの留意点があります。そうした留意点の中には、翻訳する文書の種類を問わず全般的に必要な内容、そして文書に特化した個別の内容もあります。 今回は出版物・カタログ・ウェブサイトなどを翻訳する場合を例に、当社で気を付けていることを中心に紹介します。
翻訳する目的を知る
ブログ「翻訳を外部委託する際の注意点」でも記載した通り、すべての翻訳業務ではまず、「翻訳する目的」が大切です。 出版物やカタログ、ウェブサイトなどを翻訳する場合、その目的は次の2つに大きく分かれることが多いと思います。
[参照目的]・・・・・・・書いてある内容が知りたい、参照したい [ローカライズ目的]・・・外国語版や日本語版の出版物やカタログ、ウェブサイトを制作したい の2つの目的です。
目的別翻訳の注意点
[参照目的での翻訳の場合]
参照目的で翻訳が必要になる場合、外国語から日本語へ翻訳するケースが多いのですが、何よりもまず原文の理解が大切です。読者が原文の意味を正しく理解できるよう、無理に意訳することなく、原文をそのまま訳し、必要に応じて解説や注釈も入れることが必要です。 原文が書かれた国では当然のことでも、読まれる国では文化や習慣、歴史など、さまざまな事情背景において解釈が難しい場合には、別途、解説や注釈を設けることで、より理解が深まります。 例えば、外国の法規制や条例の内容、文化的な風習などで、まだ日本語になっていないものや日本にぴったり該当するものが存在しない(したがってまだ日本語で名前が付いていないような)ものについては、外国語のまま記載し、注釈を入れるといった方法が適切です。 翻訳物を参照することで、読者が次の目的(内容の理解・学習、対象物の比較、購入など) へ移りやすくなるよう、端的に分かりやすい表現が望ましいと考えます。 [ローカライズ目的での翻訳の場合]
翻訳を行って出版物やカタログをその言語版として作成する場合には、翻訳作業の仕様は 少し異なります。まず確認しなくてはならないのは、「原文の原稿を翻訳するだけで外国語版(あるいは日本語版)になるか?」ということです。多くの場合、出版物・カタログ・ウェブサイトは、多くの時間をかけて校正が行われ、特定の目的、読者に向けた内容として完成されています。
日本語の出版物・カタログ・ウェブサイトは通常、国内の読者を対象として書かれています。また外国語で書かれた出版物・カタログ・ウェブサイトについても同様に、それぞれ対象読者が設定されています。
例として、国内で展開していた製品のカタログを海外ユーザ向けに英訳したい場合を挙げてみましょう。
製品の紹介記事中に「国内での売上げ」という日本語があったとします。この文言をその まま英訳すると “domestic sales” となりますが、これをアメリカ人が見ると、「アメリカ国内での売上げ」という意味となって受け取られてしまいます。実際には「日本国内での売上げ」なので大きな誤解が生じます。さらに、準拠しているJIS規格がカタログに載っている場合でも、それをそのまま翻訳版でも掲載するかどうかは検討の余地があります。保証体制は現在展開している国内のもののままでよいのか、海外の場合には異なるのか、といった問題もあります。カタログにそのまま電話番号を載せてしまったところ、海外から国際電話がかかってきたが英語対応に困り、慌ててメールアドレスのみに変えた、という笑えないケースもあります。
同様のことは、たとえば英語で書かれたカタログを和訳して国内で展開したい、という場合にも発生します。英語圏で通用する表現と日本で通用する表現には差異があり、たとえば数値の表記の仕方も欧州、米国、日本それぞれで異なりがあります。内容を確認し、日本国内での運用に合わせた表記に変えなければならず、和訳の場合には特に、日本の読者の視点に立った表現を選んで翻訳し、さらに翻訳の後には目的に沿ったライティングを行い、情報の取捨、削除や追加という作業を行ってはじめて日本語のカタログとなります。
つまり、英語のカタログをそのまま和訳しても日本語のカタログにはならず、日本語のウェブサイトをそのまま英訳しても海外向けのウェブサイトにはなり得ないのが実情です。
そのため、理想的には、現在仕上がっている日本語や外国語のカタログをそのまま翻訳するのではなく、いったん「翻訳用の原稿」を作成することが必要です。
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次に必要なのはレイアウト上での確認です。レイアウトが重要な意味を持つカタログや出版物は特に、レイアウト作業時やレイアウト作業後に、翻訳者による確認や校正を入れる と安心です。翻訳すると基本的に文字量は増えます(言語によって異なりますが、基本的 に 1.3〜1.5 倍程度)。原文では無理のないレイアウトでも、翻訳後は文字が入りきらず、違和感のある見栄えとなる可能性があります。原文で紹介した位置関係が、文字量や横書き、縦書きの関係で変化してしまっているかもしれません。図表やイラストとの関係性も、翻訳後に違和感がないものとして仕上がっているか、再度注意して確認し、場合に応じてタッチアップや修正を行う必要があります。
上述した作業について、当社内では案件毎に必要性を確認し調整を行っています。翻訳中のコメント出し、翻訳後の確認調整、レイアウトチェックといった工程を通じ、目的に応じた微調整を行い、リライトに必要な情報をお客様にお伝えして、求められる成果物の作成に取り組んでいます。
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