みなさんはコーヒーがお好きでしょうか?アイス派ですか?ホット派ですか?お砂糖・ミルクは入れますか?
私は何も入れないシンプルなブラックコーヒーが好きです。そして夏でも、コーヒーはアイスよりホットがいいです。
今日はこの、「コーヒーは熱いのが好きです」
という文章を英語にしてみようと思います。
I like hot coffee.
はい、簡単ですね?
ただ、この文章を日本語にすると「私はホットコーヒーが好きです」という単純な文章になり、
微妙に「コーヒーは熱いのが好きです」のニュアンスは伝わりませんね。
だってこれだと、「(アイスコーヒーも好きだけど)ホットコーヒーも好き」なのかもしれません。
そう、「お茶やジュースじゃなくてコーヒーを飲むなら、熱いコーヒーが飲みたいんだ!」っていう、この感じが少し弱い気がします。
で、そういうニュアンスを含めるなら、英文も少し変わります。
I like my coffee hot. とか、
My coffee should be always hot. という感じでしょうか。
さらに言えば、
「コーヒーは熱いのが好きです」という文章は、文法的には正しい日本語とは言えません。
このまま翻訳してほしい、と日本語初心者の外国人に言うと少し難しいかもしれません。
何より「私は」という主語が無い。その代わりに「~は」と「~が」が混在しています。
でも日本人にとっては普通に自然な文章として意味が伝わるし、何なら「私はいつも熱いコーヒーを飲みます」
と「正しく」言ってしまうと、日本語としてはちょっと「自然ではなくなる」気がしませんか?
こういう言い方、普通しませんよね?
翻訳した後で、ネイティブチェックが必要ですか?とお客様に尋ねることがよくあります。
カタログや出版物では必須ともいえるこの「ネイティブチェック」、これは文章にこうした「自然さ」を加える作業でもあるのです。
※ネイティブチェックとは、翻訳後の言語を母国語とするネイティブがチェック・リライトをかける作業のことです。
通常、原文(日本語→英語のときは日本語)のネイティブである日本人が一次翻訳を行い、訳文(英語)のネイティブであるアメリカ人やイギリス人がチェック・リライトを行うのが一般的です。
言葉には「正しい」かどうかということだけではなく、「自然」かどうかということも問われます。ローカライズが必要な文章には特に、「自然であるかどうか」が重要です。
ネイティブさんにチェックやリライトをかけてもらって、なぜこんな風に修正したのか?と尋ねたとき、回答が明確ではなく「こっちの方が自然だから」「(修正前の表現は)そんな言い方を普通しないから」と言ってくることがよくあります。
これは、そのままお客様に説明するには少し心もとない回答なので、もう少し突っ込んで聞きたいのですが、彼らにしてみればそうしか言いようがない。それは、「私はいつも熱いコーヒーを飲みます」という文章よりも、「コーヒーは熱いのが好きです」という文章の方が自然だから、というと、(日本人の私たちにも)少し理解できるかもしれません。
この「正しい」と「自然である」という2つのパラメータ、この重みづけをどう調整するか、
それが翻訳という作業においてとても重要なことだと、私は考えています。それは一文ずつの文章の内容によっても、そして何よりその文書の性質や用途、読者によっても少しずつ異なる、繊細な調整作業です。
なぜなら文書、そして文章によっては、「自然さ」を少し犠牲にしても「正しさ」を優先しなくてはならないものも確かに存在しているからです。そしてもちろんその逆も、あります。
原文の自然さを一度解析し、「正しい」意味をとらえたうえで再度、その場で求められる重みづけを行った「自然な」訳語に戻してゆく。
そうした作業が翻訳では求められていると、日々痛感しています。
さて、コーヒーが冷めてしまいました。やっぱりコーヒーは熱いのが美味しいですよね?
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