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AI翻訳に頼る前に:技術文書を“伝わる英語”に仕上げるには?

更新日:8月4日

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AIを使えばすべて解決…ではない


AI翻訳の導入が進む一方、「訳文が不自然で、海外の取引先に誤解された」、「専門用語のニュアンスが伝わらない」といった声を耳にする機会も増えています。人材が限られた中小企業では、「翻訳に慣れていない社員が残業して仕上げる」といったケースも少なくありません。

そうした話を聞いてみると、「AI生成後の訳文を十分にチェックせず、そのまま使っている」という実態があるようです。

実は、翻訳にも“作業工程”があります。翻訳とは言葉の置き換えではなく、複数の工程が自然に連携する高度な思考作業です。そのため、AIを使う場合でも、原文の構造整理=「プレエディット」、訳文の調整=「ポストエディット」、そして業界文書に応じた表現の選定、といった工程が欠かせません。

そこで今回のブログでは、前処理としてのプレエディット、後処理としてのポストエディットの必要性について考えてみたいと思います。


注記:プレエディット・ポストエディットについて:

  • プレエディット(Pre-editing)とは? 翻訳対象の原文を事前に整える工程。曖昧な表現の明確化、文構造の整理、文書目的に応じた語調の調整などを行うことで、AI翻訳の誤訳を未然に防ぎます。

  • ポストエディット(Post-editing)とは?

    AIが生成した訳文に対して行う見直し・修正工程。文法的誤りや表現の不自然さを補正し、読みやすく正確な訳文へと仕上げます。文書の目的に即した語彙・トーン調整も含まれます。


プレエディット(前処理)の重要性


AIは原文を忠実に処理します。けれども、原文が曖昧だった場合はどうでしょうか?

以下の事例で考えてみましょう。



事例①:「多少ばらつきがありますが、問題ありません」

用途例:取扱説明書やサービスマニュアルにおいて検査値の正常範囲を説明する文言。


AI訳例“There is some variation, but no problem.”


⛔️「ばらつきの程度」や「許容範囲」が読み取れず、技術文書としては不正確で信頼性を欠いた

  表現となっています。

✅ 英語では数値の補足や “within tolerance” のような表現が必要です。


プレエディット後

「測定値にばらつきが生じる可能性がありますが、許容範囲内であれば問題ありません」


正しい英訳例

“Variations in measurement values may occur, but they are acceptable if within the specified tolerance.”


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事例②:「この度はご不便をかけ申し訳ありません。当社での調査結果につき以下の通りお知らせいたします」

用途例:品質調査報告の冒頭文。クレーム対応として使われる定型的な文言。


AI訳例

“We apologize for any inconvenience caused. We would like to inform you of the results of our investigation as follows.”


⛔️ 英語では謝罪と責任認定を含む文と誤解されるおそれがあり、内容の信頼性を損なう可能性が あります。

✅ 調査報告や状況説明の後に「不具合は認められない」と続く場合、冒頭文との間に矛盾が生じ

ます。


プレエディット例:

「お知らせいただいたクレームに対し、当社で調査を実施しました。以下の通りその調査結果をお知らせします」


“Responding to your complaint, we have conducted the investigation. please find our investigation results as below.”


翻訳者は通常、こうした言い換えを脳内で行いながら翻訳しています。AI翻訳を利用する場合、これを事前に言語化してインプットする必要があります。



ポストエディット(後処理)の実際


ここからは、原文を変更できない場合に求められる“後処理”=ポストエディットの事例をご紹介します。

原文をプレエディットすることは有用です。しかし、現場では「原文を変更できない」、「社内文書の書きぶりに手を加えるには社内稟議が必要」など、プレエディットの適用が難しいケースも多数あります。こうした場合には、「曖昧な表現の原文のまま英訳するしかない」場面において、訳文側でバランスを取る=ポストエディットの技術が問われると言えます。

ポストエディットでは、AIが訳した文を確認し適宜修正するとともに、読みやすく、文書の目的に沿った形に調整します。以下にいくつか事例を紹介します。

 


事例①:「安全のため、定格以上の電圧で使用しないでください。」(取説)


AI訳例“For safety, do not use over the rated voltage.”


⛔️「使用しない」という動詞の目的語が抜け落ちているため、「電圧を使う」と、誤った表現に

読み取れてしまいます。

✅ 正確な対象物と安全意図を明確にする必要があります。


ポストエディット例

“Do not operate the device at a voltage exceeding its rated limit to ensure safety of the users.”

 


事例②:「弊社出荷時点では異常は確認されませんでした。」(品質文書)


AI訳例“No abnormality was confirmed at the time of our shipment.”


⛔️ “confirmed” という語では、一度異常が発生したような印象を与える恐れがあります。また

“at the time of” は瞬間的な確認に留まり、検査工程の信頼性が弱く感じられます。

✅ 用語・ニュアンスともに、技術文書に適した表現への変更が重要です。


ポストエディット例

“No anomalies were observed prior to shipment from our facility.”


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事例③:「配線に問題がある可能性がありますので、必要に応じてご確認ください。」(サービスマニュアル)


AI訳例“There may be a problem with the wiring, so please check if necessary.”

⛔️ 製品側に欠陥があるような印象を与えるほか、「必要に応じて」や「確認」が曖昧で、指示と

して不十分です。

✅ 原因・条件を限定し、読み手に安心感や明確な行動指針を示すことが求められます。


ポストエディット例:

“Wiring may be incorrect. Check and correct the wiring as needed to ensure proper functionality of the system.”



<プレエディット・ポストエディットを含んだ翻訳プロセス>

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翻訳は、“ものづくり”の延長線にある大切なプロセスの一つです


「社内に翻訳できる人がいない…でも社員の負担は避けたい」そんな時こそ、専門家にアウトソースすることで、品質と効率の両立が可能です。

翻訳とは、目的に向かって言葉を組み立てる“技術”の一つ。伝える相手を想像し、背景を汲み取り、目的に沿った形に整える、その積み重ねが、海外のお客様の信頼へとつながります。

せっかく導入したAI翻訳を残念な結果としないために、必要な手間をかけて御社の技術を正しく読者へ届ける。


御社のドキュメント展開の選択肢に、ぜひプレエディットやポストエディットといった専門的な翻訳プロセスを入れてください。

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