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『日本』を発信する


今年は10月になっても暑い日が続いていました。11月に入ってもまだひまわりが咲いている、というニュースも目にしました。いわゆる「異常気象」ですね。


ところで、この話はこのまま翻訳するだけで海外の方に「気候がおかしい」ということが伝わるでしょうか?


京あはせでは、主に製品カタログや取扱説明書、海外取引の際の契約書や仕様書の技術翻訳を行っていますが、私が担当しているのは観光施設や博物館、寺社仏閣などのパンフレット、官公庁からのお知らせ、伝統文化に関する書籍などの翻訳です。このような翻訳は、多くの場合、日本人向けに作られたパンフレット等をそのままお客様から「元原稿」として受け取り、その内容を翻訳します。ですが、その際には、気をつけなければならないことがあります。


冒頭の文章の場合、これを読んでいる方が日本人、あるいは日本に長く住んでいる方であれば、納得のいく内容であると思います。では、日本の気候に馴染みのない方が読んだ場合はどうでしょうか?


日本には四季がある、ということは海外の人でも知っているかもしれません。でも、春・夏・秋・冬がそれぞれ何月頃なのか、ということまでは知らない人もいるでしょう。また、ひまわりという植物が生息していない地域の人たちは、ひまわりが夏に咲く花だということを知らないので、「秋に咲いているのはおかしい」ということが伝わりません。常夏の国の人であれば、そもそも季節ごとに異なる花が咲く、というイメージが湧かないかもしれません。日本の気候を知らない人には、「10月なのに暑い」「11月なのにひまわりが咲いている」という異常さは伝わらないのです。


これは少し極端な例でしたが、伝統文化や風習、歴史、気候風土、生活習慣など、日本独特の物事について翻訳するときには、それらに馴染みのない人たちのために、原文とは表現を変える、説明を加える、などの考慮が必要です。



また、伝統的なことなど明らかに「日本独特」のものだけではなく、日本人には当たり前すぎて気が付かないものもあります。例えば、以前、日本に長く住んでいて日本語も堪能な外国人の友人を「お芋掘り」に誘ったところ、彼女はそれを「ジャガイモ掘り」だと勘違いしました。日本人にとって「お芋掘り」といえばサツマイモですが、芋掘り体験のなかった彼女はそれを知らなかったのです。私は、このことで初めて、「お芋掘り」という言葉だけでは芋の種類はわからない、ということに気が付きました。


翻訳という仕事をするためには外国語や外国文化に精通している必要があるのはもちろんのことです。しかし、観光案内や文化紹介など、自国の魅力を海外に発信するためには、自分の国のこともよく知っている必要があります。昨今は何でもインターネットで調べられるので、詳しくなくても困ることはないかもしれません。それでも、日頃から自国の文化や風習に触れ、その意味や由来などに関心を持つことが、この仕事をする上で大切なことだと考えています。

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